DESIGN COMPUTING CRAFT
2014.07.22
  • 一覧へ
  • Category:
  • Diary (13)
  • Book Review (2)
  • Column (10)
  • Report (11)
  • Trial Reading (13)
  • Archive:
  • Search (Articles) :
Column

BOOKS ON JAPAN: Beyond The Space, Beyond The Time #3 森岡督行

Union Postale Universelle, CARTE POSTALE / 発行年不明

表参道ヒルズやGYRE、ラフォーレ原宿が立ち並ぶ表参道は、本来、明治神宮への参道として大正8年・1919年に整備されました。今回紹介するのは、当時の表参道を、青山通りから原宿駅の方角に見た絵葉書です。「Union Postale Universelle, CARTE POSTALE, made in Japan」(万国郵便連合、葉書、日本製)という表記があることから、外国人のおみやげとして販売されていたことが予想されます。日本の素晴らしさを海外に伝えるという意味では、絵葉書もまた、対外宣伝の役割を担っていたと考えられます。そこに露骨な政治的意図が感じられないぶん、より柔軟な浸透力があったのかもしれません。

私は、この絵葉書に、これまで2度出会っています。1度目は、今はもう閉店してしまった神保町のアベノスタンプコイン社にて。アベノスタンプコイン社は、映画のパンフレットや絵葉書、切手を扱う、紙モノの宝庫でした。2度目は、福岡県のとある古書店のウェブサイトにて。どちらも購入することに迷いはありませんでした。このうち1枚は、元サッカー日本代表の選手のもとにあります。この選手が茅場町の店舗にご来店くださった際、このイメージを見てあまりに驚かれたので差し上げてしまいました。

ともあれ、完成したばかりの表参道は、現在の表参道と比較すると衝撃的です。巨大な鳥居と両脇に何もない通りは、現在からは想像もつきません。表参道は、まさに明治神宮への参道としてつくられたことが、この絵葉書の風景からわかります。それ故、今両脇に立ち並ぶ商業施設は、明治神宮の出店のようにも見えてきます。屋台としての高級レストラン。露店としての各ブランド。かつて、寺社の門前に市場が形成されていった歴史を反芻するようです。

一方、ゆるやかに坂をくだって、ゆるやかに坂をのぼる、という地形は現在と変わりないようです。その境目に、当時は穏田川が流れていて、現在はそれを暗渠にしたキャットストリートがあります。その近くにあるはずの明治通りは、まだこの時代は開通していないようです。鳥居に明記された「東京府」は、明治元年・1868年から昭和18年・1943年までに存在した行政単位です。表参道が興味深いのは、元旦の日に、初日の出が一直線に明治神宮を指す方角に向いて延びている点にもあります。

忘れていけないのは、昭和20年・1945年5月24日、25日の「山の手大空襲」。表参道は大炎上をおこし、焦土と化した往来は焼死体で埋まったそうです。そのときの体験談を記録した『表参道が燃えた火』という本が出版されていることを最近知りました。戦災で亡くなった人を慰霊するための碑が、みずほ銀行の横に建立されています。現在のケヤキ並木のほとんどは、戦後に植え直されました。

この絵葉書は、表参道の様々な歴史を喚起し、現在の繁栄のとはまた違う表参道のイメージを与えてくれます。

web_m1147

photo: Seiji Mizuno

photo: Seiji Mizuno

 

森岡督行(もりおか・よしゆき)
1974年生まれ。東京・茅場町にある昭和2年築の古いビルで、写真集や美術の古書を扱う森岡書店を営む。著書に『荒野の古本屋』(晶文社)、『BOOKS ON JAPAN 1931–1972 日本の対外宣伝グラフ誌』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『写真集 誰かに贈りたくなる108冊』(平凡社)がある。『芸術新潮』にて「作家が覗いたレンズ」、新潮社・とんぼの本のホームページにて「森岡書店日記」を連載中。

loding...