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2014.08.25
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Column

千文字描書 #4 渡辺潤平

piece & lump

piece

彼女は、とてもうつくしい。
ずっとそう言われてきたし、実際、彼女もそのとおりだと感じている。
彼女はいつも、大勢のともだちに囲まれている。
それが彼女の日常だし、彼女もそれを当然のことと考える。
特定の恋人がいる、という話は聞かない。
それでも、かつて彼女と関係したと吹聴する男子は
学校の内外を問わず、あとをたたない。
夏の校外学習のこと。
女子はみな、彼女と同じグループに属することを熱望し、
男子はみな、彼女との偶発的な逃避行を妄想した。
彼女のスケジュール帳には、予定がビッシリ書き込まれている。
そう、何週間も先まで、ずっと。
彼女はよく笑い、その声は周囲のあらゆる人間を幸福にする。
ファッション雑誌の読者モデルとして活動する彼女は、
ときおり授業を欠席することがある。
そんな日の教室は、灰色で、憂鬱で、虚ろだ。
親友の数をたずねると、やや困った顔をして彼女は答える。
「え。そんなの……たくさんいすぎて……わかんないんだけど」
彼女はいつも誰かといて、彼女はいつも満たされていて、
しかし、彼女はいつも、完全にひとりだ。

 

lump

台所から、砂糖醤油の香りが漂ってくる。
「いけね、ちょっと焦がしちまったかな」
ひとりごちながら、彼はようやくたちあがる。
はじめは何をつくっても、塩っ辛く仕上がったものだ。
それが今では、なかなかいい感じになってきた。
包丁など、ろくに握ったこともない彼のために、妻はごく簡単なレシピを書き残していた。
あれからもう2年がたつ。ラジオをつけ、遅い昼食をすませると、
かろうじて陽の当たる和室の隅で横になり、彼は小さな座布団に顔をうずめる。
妻を追いかけるように死んでいった犬の、耳の後ろの香ばしいにおいが、
太陽をいっぱいに吸った座布団から、まだ、かすかに漂ってくる気がする。
まどろみから醒めると、学生時分に読んだ歴史小説を、ゆっくり読み返す。
急ぐ必要など、まるでない。時間なら、いくらでもある。
彼はいつも誰とも群れず、彼はいつも孤独で、
そして彼は、決してひとりではない。

 

渡辺潤平(わたなべ・じゅんぺい)
コピーライター。早稲田大学卒業後、博報堂入社。2007年に渡辺潤平社設立。最近の仕事に千葉ロッテマリーンズ「交流戦ポスター」、日経電子版「田中電子版」、ユニクロ「新・チノ、新・カーゴ」、進研ゼミ「進め、学び。」、みんなのテニスポータブル「全員修造!」など。カンヌ国際広告祭、TCC新人賞、日経広告賞などを受賞。

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