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2014.09.29
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Column

BOOKS ON JAPAN: Beyond The Space, Beyond The Time #4 森岡督行

GREATER EAST ASIA Co-Prosperity Sphere(The Osaka Mainichi / 1941)

8月15日、終戦記念日の靖国神社では、正午になると日章旗を掲げながら旧軍歌の「海ゆかば」を斉唱する光景が見られます。「海ゆかば」は、いまではほとんど歌うことも、聞くこともない曲ですが、出征兵士を送る際に歌われていました。思わず背筋が伸びるような旋律で、どこか厳かな感じがします。歌詞には、万葉集から採られた大伴家持の歌があてられていますが、その意味は、海でも陸でも日本のために身を賭すというような内容です(戦中には、日本軍の玉砕を伝えるラジオの冒頭でも流されました)。83歳の自分の祖母は、小学校でよく歌っていたと述べていました。それにしても、この歌に送られた日本兵たちは、何を思って戦地に向かったのでしょうか。何のために戦争に行ったのでしょうか。今回紹介する『GREATER EAST ASIA Co-Prosperity Sphere』のような対外宣伝誌を見ることは、この問いに「正しく」答えることなどとうていできないにしても、考えを巡らすことのきっかけを与えてくれます。

『GREATER EAST ASIA Co-Prosperity Sphere』は、1941年に大阪毎日新聞社から刊行された英文の冊子です。タイトルが示すように、大東亜共栄圏を海外に伝えるために出版されたと考えられます。誌面では、「Nippon Mediates In Thai, FIC Conflict」という記事がメインで掲載されています。あらためて年表で1941年を確認してみると、5月に「東京条約締結」という事項があります。記事はどうもこのことを伝えているのですが、「東京条約」はちょっと聞きなれない歴史用語ではないでしょうか。調べてみると、当時、タイとフランス領インドシナ(FIC)との間で領土をめぐって勃発していた紛争を、日本政府が仲介する会議が東京で開催されていました 。その結果、タイの戦勝が確定。バンコクには戦勝記念塔までが建造されました。

当時の対外宣伝誌を読むかぎり、大東亜共栄圏の構想は、白人の植民地支配を終わらせ、独立国家として共に繁栄していく、それが日本の国防にもつながることを想定していたように思えます。そういう観点からすれば、「東京条約」は大東亜共栄圏を建設しようとしていた日本にとって、うってつけの実績だったと考えられます。統制された新聞とラジオぐらいしか情報を得るすべがなかった国内では、多くの人々が信じた、あるいは信じたい、日本の役目だったのかもしれません。いずれにしても、およそ半年後にマレー作戦と真珠湾攻撃が実行され、日本は軍事力をもって大東亜共栄圏の建設に乗り出してゆきます。いまの私たちの観点からすれば、アジアの開放という理想よりも、石油と天然資源を獲得するための野心の方が上回ってみえたり、映画『ゆきゆきて、神軍』のような、人間の尊厳を奪い合う戦争のはらわたが想起されるわけですが、このような対外宣伝誌は、真珠湾攻撃以降、多種多様に出版され続け、日本の戦争の大義名分を海外に伝えてゆきます。そこには悲劇のかけらはまったく見えません。

当時の対外宣伝誌は、現在まで残っているものはとても少なく、本書などは、おそらくこれ1冊しか類例がありません。わずかに残された誌面は、「海ゆかば」が歌われた背景に、このような大義名分があったということを伝えていますが、それ以上に、私たちは想像できるはずです。残らなかったという事実自体に、とてつもない残酷さや惨さが潜んでいることを。ひいては「海ゆかば」で送られた若者が実際に見ただろう事象が隠れていることを。こんな言葉で済まされるような歴史ではないのかもしれませんが。

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photo: Seiji Mizuno

photo: Seiji Mizuno

 

森岡督行(もりおか・よしゆき)
1974年生まれ。東京・茅場町にある昭和2年築の古いビルで、写真集や美術の古書を扱う森岡書店を営む。著書に『荒野の古本屋』(晶文社)、『BOOKS ON JAPAN 1931–1972 日本の対外宣伝グラフ誌』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『写真集 誰かに贈りたくなる108冊』(平凡社)がある。『芸術新潮』にて「作家が覗いたレンズ」、新潮社・とんぼの本のホームページにて「森岡書店日記」を連載中。

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