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2014.12.22
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Book Review

Book Review:デザイナーとして起業した(い)君へ。成功するためのアドバイス

2013年11月に刊行された本書『デザイナーとして起業した(い)君へ。成功するためのアドバイス』は、海外のデザイナーによって書かれた本ですが、日本にはない海外のデザイン業界事情もあれば、国が違っても変わらない部分もあります。今回は、本書のデザインを担当された、SOUVENIR DESIGNの武田厚志さんに、違っている部分、同じだと感じた部分を伺いました。全22章からなるうちのほんの少しですが、内容と共にご紹介したいと思います。

全体を通して大きく違いを感じたのは、契約書についてです。

 僕は独立したてのころ、書面に書いておくことについてあまり関心を払っていなかった。それよりも、クライアントのためにできるだけ手続きを簡単にすることのほうが大事だと思っていた。クライアントに書類を作成したり署名したりする余計な手間をかけさせたくない、と考えていたのだ。
 しかしそのうち、そうも言っていられなくなった。いくつかのプロジェクトで、当初予定していた範囲をはるかに超えて仕事をするよう求められたのだ。そうした状況が生じたのは、明確な契約条件を定めず、様々な提出物に受領の署名をもらう手続きをきちんと踏んでいなかったからだった。(P.264より)

 海外では、仕事をする際にクライアントとも、またデザイン事務所でデザイナーが雇用するデザイナーとも、契約書を交わすことが多いということ。契約書を交わしていた場合、仕事の途中でクライアントとトラブルになったとしても、契約時の内容に基づいてデザイン料が支払われます。
 また、雇用時の契約によっては、ポートフォリオに自身のこなした仕事が掲載できない場合があるということ。そうすると、独立する時に作る個人のポートフォリオに、勤めていたデザイン事務所での仕事を載せることができない、なんていうことにも。
 日本では、勤めていた事務所との関係にもよると思いますが、特に契約書を交わすということもあまりないため、そこまで厳密ではないと思います。

 ポートフォリオに関連したところでは、プロボノ活動についての記述が面白いと思いました。

 「プロボノ・パブリコ」(通常「プロボノ」と短縮される)とはラテン語で「公益のために」の意味だ。この言葉は一般的に、公共サービスとして自発的に無償で行われる専門的な仕事を表すのに使われる。(P.157より)

 プロボノ活動とは、プロの職業人が専門的な技術を用いて、それらのプロのサービスを受ける金銭的な余裕のない人々にサービスを提供することを指すそうです。独立時の自分のポートフォリオ充実のために、プロボノ活動を行い、地元の非営利団体にスキルを提供することは、いいことだなと思いました。
 また、中には同じだなと感じた部分も。

 僕は新しいプロジェクトを引き受けたら、新しい経験を学ぶ機会だととらえて、まずはクライアントのビジネスの基本情報をリサーチする。利益が生み出される最もシンプルな方法と、ビジネスの最もシンプルなゴールに目を向ける。僕がやらないのは、以前別のクライアントのプロジェクトで採用されなかったデザインを使い回そうと考えることだ。(P.25より)

 例えば、第1章の「デザイナーに必要な心構え」では、「自分の経験にとらわれすぎない」という節があります。自分自身では、今までに手掛けた仕事と似たような依頼を受けた場合、それまでの経験を活かしつつもなるべく以前の仕事にとらわれず、ゼロから考えるようにしています。
 たとえ、以前の仕事でデザインしたものを見て依頼したと言ってもらったとしても、そのときのデザインは一度頭の中から消して、ゼロから探っていくという姿勢で仕事をするようにしています。

 読み進めていき、改めて感じた部分もありました。
 この本の第3章、「君のニッチを見つけよう」では、得意分野を定めることを奨めています。自分は、なるべく色々な仕事をしたいと思ってこれまでやってきましたが、中でもやっていて特に楽しいと思えるものはあります。自分の場合は、本と写真でした。

 ニッチとは「隙間」の意味で、特定のニーズを持つ規模の小さい市場のことをニッチ市場と言う。君の場合は、特定の種類のデザインを売ったり、特定のタイプのクライアントをターゲットにしたりする、ニッチなビジネスが関わってくる。(P.47より)

 実は、独立時に勤めていた事務所が広告系のところだったので、本のデザインはしたことがなかったのですが、本はデザインした後、長く人の目に触れるところがいいなと感じ、手掛けたいと思いました。また本の表紙は、その本にとっての広告でもあるので、広告の絵作りに通じるものがあると思い、独立前に出会った編集者に営業したりして仕事を広げていきました。
 写真は自分も元々好きだったということもあり、どう扱えばよく見せることができるかということには自信があります。もちろん、何でもかんでもよく見せればいいとは思いません。目的に応じた写真の扱い方があると思いますし、そうした部分に魅力を感じています。

 そして、独立するときに必ず必要になるのが、会社名や屋号です。この本でも、第7章で「ブランド・ネーミング」として章をさいています。

 僕らはいい物語が大好きだ。子供の頃、読み聞かせをしてもらったときからずっとそうで、ビジネスでもそれは同じだ。君の物語を聞いて、人は君の会社の株を買ってくれるのだ。そして君のビジネスネームは、君が自分の物語を語り、顧客と会話を始めるきっかけになる。(P.97より)

 僕の場合は、発音やスペルなども気にしながら、印象に残る言葉を辞書で引き、ピックアップしていきました。その中でも「SOUVENIR」には「お土産」「形見」「思い出の品物」という意味があり、自分が携わった仕事が、誰かの印象に残ったり大切なものになってくれたりしたらいいと思い、選びました。日本では「お土産」という意味で一番知られている言葉ですので、そうした意味でも印象に残りやすいと思ってつけました。

 そして、本書の後半部分、第14章〜第18章では「プロジェクトのマネジメント方法」として、クライアントへの対応方法や料金設定、契約、プレゼン方法などについて書かれています。料金設定については、誰もが気になる部分かと思いますが、本書でも以下のように書かれています。

 前章でアドバイスをくれたアリーナ・ウィーラー(Alina Wheeler)は、僕よりもずっと長い間デザイン業界に身を置いているが、その彼女曰く、多くのデザイン会社にとって、仕事に値段をつけることは、まさに拷問のような非効率的な作業でしかない。「魔法の公式もなければ、究極の正しい数字もない。あるクライアントにとっては2万5000ドル(約250万円)のプロジェクトが、他のクライアントにとっては10万ドル(約995万円)のプロジェクトになることも実際にあるのです。」(P.244より)

 自分の場合は、仕事にかかる前にデザイン費を提示してもらうようにしています。それによって、相手の考えているその仕事のスケール感がわかりますし、実際の仕事の規模に比べて予算が少ないと感じた場合は、別のアプローチを提案することもあります。
 また、提案したデザインに対してクライアントからNGが出てしまった場合、さらによくなるかもしれないチャンスだと思うようにしています。
 デザインが完成した時に満足していても、時間をあけて客観的に見てみると別の方向性もアリだったなと思うことはよくありますし、自分ではよいと思っていたデザインでも、クライアントからNGが出た場合は、違った視点でデザインし直してみるとさらによくなることもあります。
 ですので、デザインをもっと詰める時間をもらえたと考えるようにして、さらに練り直すようにしています。

プロフィール
SOUVENIR DESIGN
武田 厚志(たけだ あつし)
1971年生まれ。1994年東京造形大学卒業。サイトウマコトデザイン室を経て、2000年に独立。書籍・雑誌等、ブックデザインをメインに、パンフレット、ロゴデザイン等、グラフィックデザインに関わる仕事を対象に活動しています。写真集や写真の雑誌等、写真を扱う仕事も多い。
http://www.souvenirdesign.com/

 すでにデザイン業を起業した人も、これから起業を考えている人にも読んでほしい本書ですが、少しでも雰囲気が伝わったでしょうか。何よりもこの本で際立つのは、著者が世界中のデザイナー仲間の体験を豊富に掲載している点です。ぜひ参考にしていただければと思います。最後に最後の節から著者の言葉を掲載します。

 仮に僕らが最長で100歳まで生きるとしよう。そのうち33年間は睡眠に取られるとして、10年間は子供時代、20年間は老年期で失われるとすれば、後に残るのはたったの37年間。その間に、何か有意義なものを作り出すことになる。その期間を悲嘆や、不平不満、不必要なネガティブ思考で無駄にしてはいけない。僕らはポジティブ思考のときに、最高の作品を生み出すのだ。死後、ふたたび何かを経験できるかどうかは、まったくわからない。だから何よりもまず、自分の仕事を楽しみ、自分が置かれた環境に感謝し、物事を改善するためにデザインを利用することを愛そう。’(P.356より)

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